大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和32年(ワ)7601号 判決

原告 白石源次郎

右訴訟代理人弁護士 青木平三郎

被告 上野屋食品株式会社

右代表者 上野一太郎

被告 山中隆平

右両名訴訟代理人弁護士 米本嘉一郎

主文

被告上野屋食品株式会社が原告に対して金一五八、〇〇〇円およびこれに対する昭和三三年七月九日以降右金員支払済に至るまで、年六分の割合の金員の支払をすることを命ずる。

原告の被告上野屋食品株式会社に対するその余の請求はこれを棄却する。

原告の被告山中隆平に対する請求はこれを棄却する。

訴訟費用はこれを三分しその一を原告、その二を被告上野屋食品株式会の負担とする。

この判決は原告勝訴の部分に限り仮りに執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

原告主張の請求原因事実中本件手形の現実の振出日が原告主張の昭和三二年四月三日であつたかどうかの点を除き、その余の事実は本件当事者間に争のないところである。

又原告が本訴係属中の昭和三三年七月八日に本件手形の振出日をその補充権を行使して昭和三二年四月三日と補充したことは被告の明かに争わない事実である。

そして一般に手形振出人が振出日のみを白地とし、他の基本手形の必要記載事項を記入して手形を振出したときは、特別の反対事項の立証のない限り、白地とした振出日の記載については、これを後日その手形の所持人となつた者をして補充させる意思を有していたものと解すべきであり、またこの補充権にもとずいて所持人が補充すべき振出日についても、それが真実その手形の振出された日を補充しなければならないと解すべきであるから、本件についてこれをみると被告会社が本件手形を振出したことについては前記のように当事者間に争のない事実であり、振出人である被告会社においてとくに振出日の記入をさけて無効手形を振出すことを意識していたものと認められる事情について立証のないところから考えれば、原告が本訴においてなした前記振出日の白地補充は、それが真実の振出日と一致するやいなやの点について判断するまでもなく正当なものといわなければならない。

しかしながら白地手形上の権利の行使は、その手形の白地補充によつてそれが完成して手形となつて後、はじめてこれを有効に行使し得るものであること、又その補充によつて完全となつた効果は、既往にさかのぼつて生ずるものではなく、現に補充のなされたその時から将来に向つて生ずるにすぎないものであると解すべきことからみると、前記認定の原告が昭和三三年七月八日の本訴係属中に白地の振出日の記載を昭和三二年四月三日と記人補充したとしても、たまたま本件手形による支払請求訴訟としての本訴が係属中であつたことから、その本件手形による支払呈示はその事実の主張された本訴口頭弁論期日である昭和三三年七月八日(このことは当裁判所に明らかな事実である。)に至つてはじめて有効になされたものであると解すべきであり、この効果はさかのぼつて生ずるものでもないのであるから、本件当事者間に争のない昭和三二年四月三〇日に原告が支払呈示をなしたという事実があつても、それまでさかのぼるわけではないから、右昭和三二年四月三〇日になされた原告の支払呈示は有効な支払呈示ということはできない。したがつて右支払呈示を前提とする(昭和三三年七月八日の呈示では正当な支払呈示期間経過後となる)原告の本件手形によるその裏書人である被告山中に対する請求(遡求権行使)は手形法第七七条第五三条に照らしてその余の同被告主張の抗弁事実の判断をまつまでもなく失当として棄却を免れない。

次に被告会社の関係であるが、被告会社が本件手形を前述のように振出日白地のままとしてその補充を所持人に委して振出したことは明かであり、又その振出日が真に手形債務負担の意思なく、被告山中の金融の便宜のために同被告に貸し手形として交付されたもので、且つこの点について原告が悪意であつたとの点については、本件における全立証によつてもこれをみとめることはできないところであるから、この点の抗弁は採用することはできない。

しかしながら前記のとおり被告山中に対すると同じく、被告会社に対する本件手形の呈示も、前記昭和三三年七月八日になされたものと解すべきであるから、被告会社は原告に対して前記手形金一五八、〇〇〇円およびこれに対する右昭和三三年七月八日の翌日以降右金員完済まで年六分の割合による金員支払義務のみを負うべきものといわざるを得ない。

依つてこの限度において原告の被告会社に対する請求を正当として認容しその余を失当として棄却し、民事訴訟法第八九条第九二条第九三条第九五条第一九六条を各適用して主文の通り判決する。

(裁判官 安藤覚)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例